黄金背景テンペラ画ってどんな絵?
12~14世紀頃のイタリアで使われていた絵画の技法です。
板の上に石膏を塗って装飾し、金箔を貼り、そこにテンペラ絵の具で絵を描きます。
これは非常に手間と時間がかかる技法で、
当時のヨーロッパにはこの高度な技術を扱うことが出来る
多くの職人や画家がいました。
あまり一般的には知られていない技法ですが、
美術関係の冊子やテレビ番組などで、
金ぴかの背景の中に聖母子画や天使が描かれている絵を見たことがある
という方もいるかもしれませんね。
シモーネ・マルティーニ「聖女マルガリータと聖アンサヌスのいる受胎告知」ウフィツィ美術館 1333年
フラ・アンジェリコ「キリスト降下」1400年ごろ サン・マルコ美術館
当時のヨーロッパでは、金はこの世界の物質としては
最高のものという扱いでした。
その金を使用して絵画を装飾したのは
最高の存在である「神聖なもの」を演出するためだったようです。
”金”というとても強い物質に対して
これに負けない同等な描画方法として用いられたのがテンペラ画です。
テンペラ画とは「卵と顔料を混ぜた絵の具」で描いた絵です。
テンペラ絵の具は、顔料の色そのままの美しい発色が特徴です。
金は数千年経っても腐食や劣化をしませんが
テンペラ絵の具もまた経年による変色がほぼありません。
500年以上前に描かれた作品も当時のままの色彩を残しています。
フラ・アンジェリコ「リナイオーリノの祭壇画」1400年ごろ サン・マルコ美術館
当時、金と同等の価値があるとされていた宝石がありました。
それはラピスラズリ(青い顔料の元になる宝石)です。
希少価値の高いラピスラズリを砕いて顔料にし
「神聖なもの」を描くときに用いられました。
フィレンツェ サン・マルコ美術館にて
金とラピスラズリをふんだんに使用して
多くの作品が作られ、その殆どは教会や聖堂の中に収められました。
中世の人々にとって、
薄暗い聖堂の中でわずかな光に照らされて輝く絵は
まるで絵そのものが発光しているかのように見えたかもしれません。
そして金箔の放つ独特の空間性、永遠性などの宗教上の解釈も加わり
絵は当時の人々にとって祈りの対象でもありました。
サンマルコ美術館にて
黄金背景テンペラ画の描き方
黄金背景テンペラ画は板に絵を描きます。
普通の板に金を施すためには、石膏液を何層も塗って
丈夫で平滑な下地を作る必要があります。
テンペラ画はハッチング(線描)で絵を描くので、
平らな下地の方が描きやすいです。
下地の制作工程は…
・板に膠液で布(麻、綿など)を貼り、
・膠を混ぜた石膏液を塗り、装飾を施し、
・箔下との粉を塗り、金箔を置き、メノウで磨き、
・テンペラ絵の具で絵を描く…
というのが主な工程です。
文章にしてしまうと簡単なのですが
絵を描くまでになかなかの手間がかかります。
また、キャンバスや紙に描いた絵にも金箔を貼ることはできます。
しかし「金箔を磨く」という技術は
水押し(ウォーターギルディング)という方法でのみ可能となります。
実際の作業工程はこちらの記事をご覧ください。
まとめ
黄金背景テンペラ画ってどんなものか
どうやって作るのかを簡単に解説しました。
手の込んだ難しい技法ですが一度自分で作ると
金の輝きの虜になってしまうかもしれませんよ。
ご覧いただきありがとうございました 。
<参考文献>
紀伊利臣著「黄金背景テンペラ技法 イタリア古典絵画の研究と制作」誠文堂新光社 2013年