テンペラ画とは?卵を使って絵を描く「テンペラ画」「テンペラ絵の具」について解説します。

制作過程




目次

テンペラ画ってどんな絵?


サンドロ・ボッティチェリ「プリマヴェーラ」1482年 テンペラ ウフィツィ美術館

絵画の技法にはいろいろなものがありますが

「テンペラ画」をご存知でしょうか?

美大や専門学校などでは
古典技法の授業でテンペラ画を習いますが

一般的には、あまり知られていない技法
かもしれませんね。

 

でも この絵は見たことがある!
という方はいらっしゃるのではないでしょうか。


サンドロ・ボッティチェリ「ビーナスの誕生」1483年 ウフィツィ美術館

 

中学校の美術の教科書にも載っている
とても有名な作品ですよね。

この作品はテンペラ絵具で描かれています。

「この絵は知ってるけれど、
他の絵とどう違うのかわからない」

という方のために

今回は「テンペラ絵の具とテンペラ画」

について解説していきます。

 

テンペラとは何?

「テンペラ」という言葉は

「テンペラーレ」(ラテン語)が語源であり、

混ぜ合わせる という意味があります。

絵画の材料では一般的に

料と卵を混ぜ合わせたものが

「テンペラ絵の具」と呼ばれています。

このテンペラ絵の具を使って描いた絵が

「テンペラ画」です。

 

テンペラ画は古典的な技法

「テンペラ画」の歴史は古く、

西洋ではルネサンスの前の時代まで
ずっと用いられていた絵画技法です。

5世紀から14世紀頃までの絵画は、
ほとんどがテンペラ画とフレスコ画(壁画)でした。

しかし、15世紀に油絵の技術が確立されると
テンペラは徐々に使われなくなり、

絵画の世界は、その利便性から
油絵が主流となって行きました。

 

 

西洋では、既に古い技法として
廃れてしまったテンペラ画でしたが

一部の画家や職人たちによって
テンペラの技術は現代にまで受け継がれてきました。

 

近年では日本でも「古典技法」のひとつ
として注目されていて

テンペラを取り入れた作品を制作する作家が増えています。

 

テンペラ画は、下地や絵の具を手作りしなくてはならない、

少々、手間の掛かる技法です。

これは 便利になった現代とはかけ離れた
時代に逆行した行為ではあるけれど、

表現の基盤を知る

という意味では絵を描く人であれば
知っておくと良いかもしれません。

絵を描かない人でも
絵を見るのが好きな方や
西洋絵画の歴史に興味がある方にも

テンペラ画がどんなものかを知っておくと
絵画鑑賞の際に役に立つかもしれませんよ。

 

テンペラ絵の具の特徴

テンペラ絵の具は、顔料の色がほぼそのまま発色するのが特徴です。

明るい発色で経年による劣化、変色もありません。

しかし、展食材に卵を使用しているため

画面上にカビが生えてしまうことがあります。

中世に描かれた名画の多くはカビによる劣化、

絵の具の剥落などがありましたが、

何度も修復が繰り返されて現存されています。

 

今は、仕上げにテンペラワニスを塗布することで

カビの発生を防ぐことが出来ます。

 

 

 

テンペラ絵の具の種類

全ての絵の具は、
顔料展色材を混ぜて作られています。

例えば、顔料を混ぜれば油絵の具になります。

 

ではテンペラ絵の具は何を混ぜるのかというと

顔料と卵、カゼイン、膠、ガム

などを混ぜ合わせます。

この中で、昔から使われているのはです。

なぜ卵か?というと
いつでも誰でも手に入れやすく、
強い粘着性があるからでしょう。

例えばテーブルに生卵をちょっとこぼしただけでも
ベタベタして、さらに乾燥してしまうと
なかなか拭き取れないくらいの固着力があります。

卵の使い方には、
卵黄と卵白を分ける、全卵を使う
など様々な方法があります。

卵と他の物質を混ぜたものが
メディウム→テンペラ絵の具の展色材になります。

メディウムの種類は以下の通りです。

・エッグテンペラ(卵黄✚酢

・テンペラグラッサ(卵黄✚油性分

・テンペラミスタ(全卵+油性分

・テンペラマグラ(卵黄✚膠などの水性分

・練りこみテンペラ

 

このメディウムの中からいくつか詳しく紹介します。

 

エッグテンペラ


卵黄✚酢

ここに少量の水を加えて使用します。

エッグテンペラの特性は・・・

  • 速乾性のため、作業がはかどる
  • 水に溶ける。乾燥後は耐水性になる
  • 筆の動きが軽く、細かい描写もできる
  • ぼかせない
  • 発色が鮮やかで経年による変色がない

 

テンペラグラッサ


卵黄✚油性分

テンペラグラッサの特性は・・・
(grasso=油分を含む)

  • 油分が入っているが乾きが早い
  • 水に溶ける。乾燥後は耐水性になる
  • 多少ぼかすことができる
  • 油絵の具をグレージングできる
  • 油絵の具が乾いていなくても塗れる
  • エッグテンペラに比べて発色が暗め

 

テンペラミスタ


全卵+油性分+樹脂

テンペラミスタの特性は・・・
(mista=混合)

  • 油が入っていても水に溶ける。
    (水で薄めると乳化する)
  • 多少厚塗りができる
  • 絵の具の伸びが良い
  • 油絵具をクレージングできる
  • 油絵具が乾いていなくても重ね塗りができる
  • 堅牢な画面が作れる
  • エッグテンペラに比べて発色が暗め。

 

 

メディウムの作り方

では次に、実際に私が良く使うメディウムの
作り方をご紹介します。

 

▼テンペラミスタ

混合技法で描くときに使用しています。

全卵+油性分+樹脂

1,卵を割って白みをビンに落とし
黄みを手の平にのせる。白みのカラザは取り除く。

2,黄みを両手の平でそっと転がしてぬめりを取る。

3,片方の手で、黄みの表面の薄皮をつまみ上げて

もう片方の手で、黄みの下部を突いて中身を取り出す。

 

5,ダンマル樹脂溶液を混ぜる。


ダンマル樹脂溶液は卵の量よりも少し少なめ。

ビンをよく振って撹拌する。

マヨネーズのように白っぽくなれば出来上がり。

状態が良ければ冷蔵庫で半年保存できます。

 

 

エッグテンペラ

卵黄✚酢

1,テンペラミスタと同じ要領で、
黄みの中身を取り出す。白みは使わない。

2,酢大さじ1(卵黄と同じ量)、プリザベーティブ(防腐剤)
を少量加える。

3、絵の具を作るときに少量の水を加える

4、瓶を振って撹拌して出来上がり。

 

小瓶に入れて冷蔵庫で約一か月保存できます。

 

テンペラ絵の具の作り方

作ったメディウムと顔料(チタニウムホワイト)
を混ぜてテンペラ絵の具の白を作ります。

 

1,絵皿にメディウムを少量取る。

 

 

 

 

 

 

 

2,チタニウムホワイトを加えて練る。

3,ここに水を少しづつ加えて薄めて使います。

水は2倍くらい入れますが、薄くなりすぎないように
気をつけます。これくらいの量で、かなりの範囲を塗る
(ハッチング)することができます。

 

今回は白い絵の具を作りました。

私のyoutubeチャンネルでもテンペラ絵の具の作り方と

テンペラで絵を描く動画を公開しています。

玉上順子youtubeチャンネル → Art&Craft 玉上順子

まとめ

テンペラ画は 絵の具を手作りして
その絵の具に合った下地も
自分で作らなくてなりませんので
とても手間のかかる技法です。

また、ハッチングで絵を描くことから
デッサンの経験、出来具合も関係してきます。

大変な作業を伴いますが
ときには、昔ながらの技術や知恵に
立ち返ることも良いのではないでしょうか。

一度テンペラ画を試しに描いてみると
その魅力にはまってしまうかもしれませんよ。

ご覧いただきありがとうございました。




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